【相続生前対策】親族による使い込みの疑いへの対応策
(2022年9月13日更新)
最近、一部の親族による金銭の使い込みのを疑われる事案の相談を受ける事があります。
もし仮に、使い込まれている方が既に認知症などで意思能力が無いようなケースでは、成年後見制度が大変に有用なのですが、まだ対象者が高齢なだけでご健在のケースでは
「親族が故に厳しく言えない」
「長年なんとなく曖昧にされ、自分より若くて力もある子供に強く言えない」
などのケースも見受けられます。
その場合、任意後見契約を前提とした財産管理契約の締結も視野にいれてご相談をさせて頂いています。
そもそも任意後見契約と法定後見(成年後見人制度)の区別についても良く質問を受けますが、この両者の違いについては、下記の各ページにて説明していますのでご覧ください。
相談例101 法定後見制度と任意後見制度の違いについて教えてください① | 横浜の相続丸ごとお任せサービス (yokohama-isan.com)
相談例102 法定後見制度と任意後見制度の違いについて教えてください② | 横浜の相続丸ごとお任せサービス (yokohama-isan.com)
【任意後見契約のその前は?】
それでは任意後見契約を結ぶまでは、年老いた身内の財産を管理したりする方法や制度はないのでしょうか?
任意後見の前段階にある契約として、財産管理契約があります。財産管理契約は任意後見契約同時に設定する事が多いです。
この場合
▼第1章として財産管理契約
▼第2章として任意後見契約
との構成になります。
第2章の任意後見契約が発行すると同時に、第1章の財産管理契約は終了します。
第1章の財産管理契約から、第2章の任意後見契約に移行するため「移行型」などと呼ばれています。
任意後見などの受任者を司法書士などの第三者が受任する場合、第3章として死後事務委任契約が付随する事も多いのも特徴です。
2 任意後見契約 | 日本公証人連合会 (koshonin.gr.jp)
【財産管理契約における代理権目録の一例】
任意後見にしろ法定後見(一般的な成年後見人)にしろ、成年後見の制度には様々な意見がありますが、有用な場面として親族の一部がお金を使いこんでいる(疑いのある)場面は、大変に有益な手法の一つであると言えます。
例えばこんな例をあげます。
任意後見を検討されているのは80代の女性(以下、母)です。家族は長男と二男です。長男と二男はそれぞれ結婚して独立しています。80代の母は足が不自由で、夫を亡くして以降は自宅近くの老人施設に入居しています。
女性は脳の萎縮に伴うごく初期の認知症の診断をされており、年相応のもの忘れ程度はあります。しかしながら、おそらく通常の生活で接しただけでは全く気にならない程度です。
現状としては日常の事もできるし、銀行口座などの金銭管理も可能ですが、足が不自由なため自ら金融機関に行くことは困難です。
長男は母の入居施設の近くに住んでおり、よく夫婦で母のお見舞いに行きます。
一方、二男は母の施設を訪れる事は殆どありません。
ところが母の通帳は、隣県に住む二男夫婦が持っています。2年前に父が亡くなった際のどさくさに紛れて、父や母の通帳を実家から持ち出したようです。
長男や母が通帳を見せて欲しいと頼んでも
「うるさい。母の財産の事は俺にまかせておけ」
の一点張りで、一向に見せる気配がありません。
二男の配偶者も含めて、やや見栄っ張りでお金使いの荒いタイプです。それは二男が勤め先を早期退職した今も変わっているようには思えず、長男は不安に思っています。二男がこの調子のため、2年前に亡くなった父の相続手続きも進んでいません。相続人の1名として、父の通帳の取引履歴を取り寄せたところ、二男夫婦が行った思われる使途不明の引き出しが数百万単位が発見されました。二男夫婦に書面で説明を求めますが、一切回答はありません。
母も、亡くなった父も倹約家で、現役時代はそれなりの収入があったため、母の銀行口座にもかなりの額あるはずで、施設の入居費用などは当面の心配はありません。しかし、万が一お金が尽きてしまったら目も当てられません。
母も不安な気持ちもありますが、これまで甘やかしたつけもあるのでしょうか、二男夫婦に正面を切って、自身の通帳やキャッシュカードを引き渡すよう強く言う事もできずにいます。しかし母としても、施設の身元保証人や緊急連絡先になっており、近くに住む長男夫妻に自分の財産の管理を任せたいと思っています。
【移行型の財産管理契約・任意後見契約で母の財産を管理】
そこで母と長男との間で、先般の財産管理契約の附随した「移行型」任意後見契約をする事になりました。
公証役場での契約締結後、長男は外出の難しい母親の代わりに、母が口座を持つ各銀行を回ります。長男自身が、母の口座の入出金ができるよう、各口座での代理人としての設定をし、及び通帳キャッシュカードの再発行をするためです。
一部の金融機関では公正証書があった上でも、母親の電話または来店での意思確認を求められることもあります。しかし母も自分の意思を明確に述べることができる状態ですので、手続きは無事に終わりました。
代理人の手続きが終わった後、長男はこれまでの母の口座の取引履歴を請求しました。
すると亡くなった父同様、母の口座からも数回にわたり合計700万あまりの引き出しを確認することができました。
長男が銀行での手続きを終えて1週間ほどが経ったころ、母の金融機関から「二男夫婦が銀行店頭で『母のキャッシュカード』が使えなくなったと叫んで騒ぎになっている」との連絡が届きました。当然、銀行としては親子とはいえ他人のキャッシュカードを持っている二男夫婦に対応する理由はなく、二男夫婦はにべもなく銀行から追い返されます。
すると二男夫婦は、これまで殆ど訪れなかった母の施設を突然訪れ、「俺と一緒に印鑑持って銀行に来い」と母を連れ出そうとします。折しもコロナ禍真っ最中で、外出はおろか面会すら禁止している状況です。制止する施設の職員などを押し問答となったため、次回同じようなことがあれば親族といえども警察に通報する旨、施設側は二男に通告しました。
その後、長男は話し合いの場を設けるため、二男に電話や書面で連絡を試みますが、二男側からは一切連絡がありません。
これまで二男夫婦が引き出した金銭については、親族間の問題になってしまうため現実問題として訴訟などは難しいでしょうか。亡き父の口座からの引き出しが使い込みだったとしても、最終的な遺産分割時で考慮すべき事項になる程度でしょう。被害届を出したとしても、家族間の面倒ごとには腰の重い捜査当局が相手にしてくれるかは疑問です。(刑法第244条1項:親族相盗例など)
しかしながら今回の公正証書の作成により、母の口座からの不明朗な預金引き出しについて食い止める事ができました。今後の母の生活に役立てる資金が増えたことについては、大きな実益があったと言えるのではないでしょうか。
このページの執筆者 司法書士 近藤 崇
司法書士法人近藤事務所ウェブサイト:http://www.yokohama-isan.com/
孤独死110番:http://www.yokohama-isan.com/kodokushi
横浜市出身。私立麻布高校、横浜国立大学経営学部卒業。平成26年横浜市で司法書士事務所開設。平成30年に司法書士法人近藤事務所に法人化。
取扱い業務は相続全般、ベンチャー企業の商業登記法務など。相続分野では「孤独死」や「独居死」などで、空き家となってしまう不動産の取扱いが年々増加している事から「孤独死110番」を開設し、相談にあたっている。
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