相続登記・相続放棄の放置により、複雑となったケース
(2021年10月8日更新)
いまから5年ほど前のこと。ある初老の男性から、相続に関しての相談を受けました。この方を大輔さんとしよう。内容としては以下の通りです。
被相続人(亡くなった方)は、相談者の兄にあたる洋介さん。相談者である大輔さんは、この兄の洋介さんと姉の千恵さんの3人きょうだいです。
洋介さんは横浜市内の自宅マンションで、死後3週間ほど経った状態で発見されました。
死因は不明ですが、介護なども受けておらず自力で生活しており、冬場だったので腐敗が遅かったこともあるのでしょう
機密性の高い都市部の鉄筋コンクリート造のマンションでは、こうした事案は珍しくありません。
兄・洋介さんは、この10年ほど前に妻の雪乃さんを亡くしています。
夫婦のあいだに子どもはいませんでした。
定年退職後は、ずっと1人で暮らしていたようです。
当然ながら洋介さん、千恵さん、大輔さんの両親はすでに他界しています。
つまり、洋介さんの相続人は、きょうだいである千恵さんと大輔さんの2名となります。
大輔さんの話によると、兄・洋介さんの財産は、「自宅の築20年ほどのマンションだけ」とのことでした。
横浜市内のターミナル駅近くの大規模なマンションであり、神奈川県では一等地といえます。
一方で預金通帳を見ると、数十万の残金があるかどうかというところです。
マンションの登記簿謄本を取って調べてみると、下記のように登記をされていました。
平成@年@月@日売買
・夫 洋介 持分2分の1(※今回〈いまから5年前〉にマンション室内で死亡)
・妻 雪乃 持分2分の1(※平成15年頃、自宅で倒れ搬送先の病院で死亡)
このような登記記録を見ると、内心「参ったな」と思ってしまいます。
目の前にいる大輔さんは、「兄の住んでたマンションだから、私らきょうだいでなんとかなる」と思いこんでいますが、この場合、妻・雪乃の相続登記を放置している状況のため、事情が複雑なのです。
遺産分割協議の効果は、死亡日に遡及する(『民法第909条 遺産の分割は、相続開始のときにさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。』)。
よって平成15年時点で妻・雪乃が死亡した時点での、遺産分割協議の対象者は、その時点で存命だった洋介さんと、雪乃さんのきょうだい(死亡している人がいればその子どもたち)全員との協議になります。
つまり、マンションの登記名義を変えるためには、この全員の同意が必要になります。
いつまで経ってもこの事実は変わらないし、放っておいても時間が解決してくれることはありません。むしろ、事態は悪化するとこが多いです。
唯一の可能性として、このケースの場合、妻・雪乃にきょうだいがいない場合(両親は他界している前提)は、遺産分割協議なしで、登記ができる可能性があります。
相談者の大輔さんによると、兄嫁の雪乃さんは死亡時の戸籍にも長女とあるし、生前もきょうだいの話など聞いたことがなかった、といいます。
今回は、大輔さんが持参した資料のなかに、洋介さんの不動産関係の契約書をまとめた冊子がありました。
そのなかに、15年前に他界した妻・雪乃さんの戸籍謄本類が混じっていました。
鉛筆のメモ書きもあったので、おそらく亡くなった洋介さんが妻の戸籍を自分で取得したのでしょう。
一縷の望みをかけて、その戸籍に目を通してみます。
すると、雪乃さんの父親と母親のあいだには、子どもは雪乃さんしかいなかった。ただし「雪乃さんの父親と母親のあいだ」では、です。
雪乃さんの父親は、雪乃さんの母親と婚姻前に前妻と死別しており、その前妻とのあいだに少なくとも子どもが5人は存在していることが戸籍から読み取れました。
雪乃さんの半血のきょうだいは、年齢的に亡くなってる可能性が高いだろう。そうするとその子のおいやめいも全員が相続人となります。
専門家からみたら、相続人の確定には不足する戸籍で、おそらく亡くなった洋介さんは、ここで戸籍の取得や、亡き妻の雪乃さん名義の相続登記を諦めたのでしょう。
以上を「今回の相談者」大輔さんに伝えます。
大輔さんの名義にするには、洋介さんのきょうだいだけではなく、洋介さんの亡き妻・雪乃さんの半血のきょうだいも調べた上で協力を得ないとなりません。
そしてこの作業は、自分で行えば相当な手間であるし困難であること、専門職に頼めば相応の費用もかかることも。
「とりあえずそのままにして住めればいい」
すると大輔さんから、予想外の回答が返ってきました。
「先生、兄の預貯金も少ない、費用は出せない。でもとりあえず、このマンションに住んでもいいんですか?」
正直、初めての回答だったので驚きました。
聞けば大輔さんも独身で、経済的には厳しい状況のため、現在の賃貸アパートを解約して、とりあえず雨風をしのぐために、兄が亡くなったマンションに住みたいのことです。
なるほど、事情は理解できます。
しかし、マンションは洋介さんやその妻の雪乃さんの各相続人の共有財産です。
兄夫婦の家とはいえ、登記簿上は他人名義の家に住む…。
これは法的な権原はなんなのでしょうか?
でも誰かこの大輔さんの居住に異論を唱えるのだろうか?
いやしかし、管理組合は許可するのだろうか?
管理費や修繕積立金を支払っていれば文句はないのだろうか?
固定資産税は誰が払うのか?
こちらも納税さえしてれば、役所も特になにもいってこないだろうか…。
しかし目先の、少なくとも2回は起きている相続の問題を解決していないと、イザというときに売却処分もできないし、担保提供もできない。このような不動産に財産的な価値はほとんどありません。
また、3ヵ月の相続放棄の申述期限が切れてしまうと、あとに相続放棄をすることもできないでしょう。
当然リスクがあると思うのだが、それで本当に大丈夫なのでしょうか?
こんな疑問を投げかけてしまい、正直、正鵠を射るような法的な回答はあまりできなかった記憶があります。
しかし、依頼を受けなければなにもできないのが士業です。姉の千恵さんも「面倒くさいので関わりたくない」とのことだったので、この時は、相談だけで終了となりました。
かくして、洋介さんが孤独死したマンションに、10才ほど年の離れた大輔さんが住むことになりました。
相続登記・相続放棄の放置により複雑化したケース② | 横浜の相続丸ごとお任せサービス (yokohama-isan.com)
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