相談例81 (渉外相続)②外国籍の夫名義の不動産を「処分」したい

私の夫はアメリカ国籍です。
夫は金融機関に勤務していたため、かつて日本で勤務していた際に横浜にマンションを購入しました。
その後、夫はシンガポールやアメリカ本土に転勤になったため、この不動産は賃貸に出していました。
現在は夫と2人でシンガポールに居住しています。

夫もある程度のの年齢になってきたこともあり、この横浜市の不動産について売却手続きを考えております。

この際に注意すべきことはなんでしょうか。
また夫が死亡するまでこの不動産を持ち続けた場合、相続手続きはどうなるのでしょうか?

 

【回答】

まず前提として、日本の不動産登記法においては「住所」と「氏名」で人物の同一性を検討しています。

「横浜市在住のA山B男さん」と、「東京都在住のA山B男さん」は別人という考え方です。
このため司法書士は登記簿上の住所と現住所との一致に相当な気を使います。

日本人には当たり前のように感じますが、これは世界的にみると、かなりイレギュラーな考え方です。
実際に欧米系のお客様にこの話をしても、あまり納得をして頂けません。
住民票の概念や制度がが浸透しているのは、日本とアジアのごく一部の国だけだからです。

また印鑑証明書の制度は、この住民票の登録制度と紐づいているので、不動産の売買には切っても切れない関係です。
実際に印鑑証明書を取得するのは皆様の本籍地の市区町村ではなく「居住地」の市区町村かと思います。


そこで問題になるのが、外国籍の方です。
通常、日本人の場合、住民票や戸籍の附票で住所のつながりがつきます。

しかし、海外に居住されている方(日本国籍の人も含む)は、住所の概念が無く、住所の繋がりがつきません。
この点の整合性をつけるのが、大変な作業になってきます。

日本でも、平成24年7月9日以降、外国籍の方で中長期の在留者の方にも住民票が発行されるようになりました。

総務省|外国人住民に係る住基台帳制度|住民票 (soumu.go.jp)


つまり、これらの外国籍の方で中長期の在留者の方は印鑑証明書も発行されます。何らかの印鑑を登録をすれば。
このため外国籍の方の、日本の不動産の購入は、ひと昔前に比べて大変に容易になりました。
折しも不動産価格の上昇や、諸外国に比べると割安な面もあり、大変に多くの方が日本の不動産を購入され
弊所でもその手続きをしております。

しかし困難なのは、日本の不動産を所有したまま、海外に転居してしまうケースです。

昨今は保存期間が伸びましたが、これまで住民票除票の保存期間は「5年」で、5年を経過すると破棄されています。また多くの自治体では、破棄証明書などの発行も取扱っておりません。

しかし日本国で登記された不動産を売るためには「住所」を一致させ、また印鑑証明書に代わるものをそろえなければなりません。
日本国籍者ならば住民票1枚で済む手続きも、証明できる書面がないため、大ごとになります。

印鑑証明書を添付することができない外国籍の方のが登記義務者である時は
印鑑証明書に代わり、外国籍の方の署名した委任状の署名について、
本人のものに間違いない旨の当該外国官憲(本国【=国籍保持国】の官公署、在日公館など)又は
所属国駐在の日本大使館等の証明に係る署名証明書の添付が必要でとなります。
この場合、印鑑証明書とは違い、署名証明書については作成の期限の制限はありません。

また住所の証明についても同様に証明を受けなければなりません。
正確かつ、年月日まで1日単位で証明を受けなければならないでしょう。

よって相談者様の場合、「在シンガポール」の「アメリカ大使館」に行って、これらの証明書を入手する必要があります。

相続になった場合については、長くなりますので、次回に分けて解説したいと思います。

 

司法書士法人近藤事務所では、外国籍の方の相続登記のご相談にも個別に対応させていただきます。
ご予約専用ダイヤルは0120-926-680になります。

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