相談例79 (相続/不動産)⑰相続した地方の不動産の解体を求められています。

母が死亡して、相続が発生しました。母は父から受け継いだ、横浜市内の自宅不動産と、田舎の不動産があります。

いずれも数年前に亡くなった父から、今回亡くなった母が相続したものです。

田舎の不動産は、もともと亡き父の実家で、かなり衰退してしまった地方の県庁所在地の中心部にあります。

今回、この父の実家が所在する市区町村から通知書が届き、その内容が
「家屋に倒壊の危険性があるので、危険な建造物と判断した。
所有者として速やかに解体などの手続きをしてくれ」
とのものでした。

この要求にに応じないとならないのでしょうか?

もういっそ、横浜市内の自宅もあきらめて相続放棄をしようかと考えております。

 

回答

 

相続放棄をした場合、亡くなった方の不動産の管理責任についてはどうなるのか。民法では以下のように規定されています。


民法940条
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、
自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。


相続放棄をしたとしても、「自己のものを管理するとき」程度の管理責任があるとされています。
もし相続放棄した後に、適切な財産を管理しなかったら、どのようなリスクがあるでしょうか。

この場合、2つのリスクがあると検討されます。

1つは相続財産である不動産を管理しなかったために財産価値が減少した場合、
債権者や後順位の相続人から、減少した分の損害賠償請求を受けるケース。

もう1つは、建物などが倒壊などをして他人にケガをさせた場合、
または失火の原因になった場合などの損害賠償請求の可能性があります。

今回のケースで可能性があるのは、後者の可能性でしょう。

では、相続放棄した方が管理を免れるには、どうすればいいのでしょうか

民法によると「次の相続人が管理を始めるまで」管理義務が及ぶと規定されています。
つまり、次順位の相続人がいる場合には、その人に財産を引き渡せば管理義務は逃れることができます。
今回のケースでは、相談者さんの子供たちが相続放棄をすれば、亡くなった母の兄弟姉妹に管理責任が行くことになります。

 

もし亡くなった母の兄弟姉妹まで、相続人全員が相続放棄してしまったら、次順位の相続人は存在しません。
その場合、最後に相続放棄をした相続人が、「相続財産清算人」を選任するなどをすべきだと考えられています。

相続財産清算人は弁護士や司法書士が家庭裁判所から選任されることが多いです。
他に相続財産がない場合は、これらの専門職の報酬及び何かあった時のための保証金等として予納金として納める必要があります。
予納金は数十万程度を裁判所から求められる事もあるため、相続財産が少ない場合、実務ではあまり用いられていないのが現状です。

申立てをするのは、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所となります。

神奈川県内の管轄区域表 | 裁判所 (courts.go.jp)


また今回のケースでは、亡くなったお母様には他に不動産もあるので、
相続放棄をした場合は、この不動産も相続する事ができなくなります。

このため安易に相続放棄をしていいのか、慎重に検討を要するところかと思います。

 

 

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