資産管理法人×家族信託の連携!賃貸アパートや資産管理法人における相続の「ハイブリッド戦略」

築年数が経過したアパートやマンションなど、長年にわたって不動産賃貸業を営んできたオーナーにとって、収益物件は「老後の安定収入」が見込めると一方で、将来のいつの日か訪れる「相続」に備えなければならないというのが、大きな不安要素でもあります。

「自分に何かあったら、家族は相続をうまくできるのだろうか?」
「認知症になった場合、賃貸経営事業は止まってしまうのか?」
「資産管理法人にしたのは節税のため。でも相続時に問題が起きるのでは?」

このような懸念に対する解決策として注目されているのが、「家族信託」や「資産管理法人」による対策、またはその双方のハイブリッドな組み合わせによる相続・事業承継対策です。

以下では、不動産賃貸業などを営む法人の経営者が、次世代へ“トラブルなく”引き継ぐための現実的な戦略を、実際の事例を交えながら解説します。

家族信託を不動産賃貸業の承継に活用する

そもそも家族信託とは、どのようなものでしょうか。

家族信託とは、財産を所有する人(委託者)が、親族(受託者)に財産の管理・運用・処分を任せる仕組みです。

認知症対策や柔軟な承継計画に活用できる「次世代型の財産管理手法」として注目されています。

簡単に家族信託のメリットを掲載させていただくと下記のようなものがございます。

・認知症発症をしたとしても、不動産の名義変更をせずに賃貸経営を継続できる。
・老人ホームなどに入所の家賃収入を生活費や医療費に充てることができる。
・万が一の売却をする際に認知症だったとしても売却契約ができる。

などの多くのメリットが挙げられます。

以下に事例を何点かあげて活用方法を検討してみましょう。

事例1 施設(老人ホーム)入所に備えて自宅を信託したケース

77歳のAさんは、老後の一人暮らしが心配になり、将来的な施設入所も視野に入れていました。

しかし、認知症になってしまうと、不動産の売却や預金の引き出しも困難になるリスクがあります。

このケースでは、Aさんの長女が受託者となって、Aさんの自宅と預貯金の一部を信託財産とする家族信託を設定します。

さらに念を入れるため、本人の判断能力が落ちた段階で効力が発生する「任意後見契約」をAさんと長女の間で行うことにしました。

仮にAさんが認知症を発症し、その症状が契約行為が出来ないほどになってしまったとしても、家族信託を設定した財産はそもそもAさんの財産からの分離管理がなされていますし、家族信託を設定した財産以外については、上記の任意後見契約を発動し、任意後見監督人を選任してもらうとで管理が可能です。

このように制度を二重で用いることで、財産の漏れることのない柔軟かつ安全な管理体制が整いました。

「資産管理法人×家族信託」で実現するメリットと注意点

家族信託は個人所有の不動産以外にも用いることが可能です。

所有不動産を資産管理法人名義で保有している場合、多くはオーナー様の1人株主のケースが多いのではないでしょうか。

こうした資産管理法人の「経営権」や「株式」の承継にも家族信託は利用可能です。

メリット1:認知症になっても会社経営を止めないために

法人の代表者が認知症になると、原則、銀行取引や契約行為が一切できなくなります。

これには当然ながら株主としての株主総会の議決権行使もあたるため潜在的に大きなリスクでもあります。

家族信託により、資産管理法人の株式の議決権を信託しておけば、あらかじめ定めた受託者が経営や株主総会での議決権行使ができるため、万が一に認知症などになった場合でも会社運営を妨げることはありません。

詳細の説明まではここではしませんが、議決権のみを信託する場合、株式の配当などの経済的価値は引き続き委託者に属します。

このためこうした対価を受け取る経済的な利益をそのまま享受できるだけでなく、株式としての経済的価値の移転を伴わないため、贈与税を課税されるリスクがまずないとされています。

また受託者に与えるのは議決権だけにすることで、勝手に株式を売却される、といったリスクも排除することもできます。

メリット2:遺産分割でもめない

会社の株式は非上場会社の株式であっても相続財産となるため、相続人間で株式数が分割されていますと、どの株主も株主総会での必要十分な議決権に必要な株式数を確保できず、ともすると意見が分かれた場合、経営が機能不全に陥る可能性があります。

これらもあらかじめ信託終了時の帰属先についても、株式の議決権の承継先を指定しておくことで、スムーズな次世代への承継が可能になります。

家族間の合意形成と信託監督人の配置がカギ

家族信託は自由度が高いですが、成年後見制度などと違い家庭裁判所や後見監督人からのチェックを受ける機会が少ないため、何か問題があっても表面化するまは問題が明らかになることがない側面があります。

そのため家族間の合意形成と、第三者による監視体制が非常に重要になります。

家族信託の大半は、委託者の子が当初の受託者になることが多いですが、この子どもと親の関係性、また子ども同士の人間的な関係によっても使い分けをする必要があります。

事例2:兄妹間の関係性に応じた設計

80代のBさんのケースでは、Bさんと子どもたち(長女・長男)との関係性、また子ども同士の関係性もが比較的良好だったため、次のような信託スキームが採用されました。

・Bさんが委託者兼受益者
・長男が当初の受託者
・長女については信託監督人及び受益者代理人として設定します。

収益アパートなど重要財産の処分については、受益者代理人である長女の同意を必須とします。

Bさん死亡後、残余財産は2人が平等に取得します。

Bさんの信託の目的が、いずれ訪れるであろう施設入所や介護に備えた資金確保と、その際に柔軟に不動産の処分ができるようにすることです。

このため、親族内で役割を分担し、一定の形で子ども同士が相互に緩やかに監視をする形式の家族信託を採用しました。

事例3:兄との関係が不仲な場合の注意点

一方で、もし同じような事例でもきょうだい間の関係が悪い場合は、家族信託の設計にも注意が必要です。

この場合、同じ家族構成だとしても、上記のような家族信託の形が最適例とはいえないでしょう。

例えば、上記の例でBさんと長女の関係や良好で、長女もBさんの面倒をよく見てくれる。

一方で長男はBさんの介護などに一切関与せず疎遠であり、長男はBさんやきょうだいである長女とも、関係が悪かったとします。

Bさんとしては、「財産はなるべく長女に」と希望をしていた場合、家族信託などの仕組みを避け、前述した任意後見契約を長女と結び、かつBさんが全財産を長女に残すという公正証書遺言を残す、という組み合わせで対処することが現実的かもしれません。

さらに言えば、長男から仮に遺留分請求があった場合に備え、金銭財産の一部については死亡時一時払いの生命保険を活用する事で備えます。

この生命保険については、相続税の対策にもなるため一石二鳥とも言えます。

家族信託を設計しない分、仮に施設入居費用を工面するために不動産を売却しないとならない局面で、Bさんが重度の認知症を発症していた場合、前述の任意後見契約を発動しないとならないという点がデメリットであるかもしれませんが、このケースにおいては、こちらのスキームの方が適している、と判断するご家族も多いのではないでしょうか。

まとめ:資産管理法人の承継も、個人不動産も“ハイブリッド”に備える

家族信託や資産管理法人の活用は、不動産賃貸業を営むオーナーが直面する「認知症リスク」や「相続問題」といった不安を、事前に解消できる強力な手段です。

とりわけ両者を組み合わせたハイブリッドな戦略は、さまざまな面で柔軟性が高く、会社事業と資産を確実に次世代へバトンタッチするための有効な選択肢となります。

ご家族の状況に応じた設計が重要となるため、まずは専門家に相談しながら、今できる備えを一歩ずつ進めてみてはいかがでしょうか。

当事務所では家族信託の経験豊富な司法書士がお客様のご相談に親身に対応しています。

横浜市を中心に神奈川県全域から多数のご相談をいただいておりますので生前対策や家族信託に少しでもご不安やご不明点がございましたらお気軽にご相談くださいませ。


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