「実家を○○に継がせたい」60~80代の方向け遺言書で指定する不動産相続の成功事例・失敗例と注意点
自分の死後、「家や土地を誰に引き継がせるか」は、多くの方にとって重要な関心事です。
特に不動産は分割が難しく、遺産トラブルの原因になりやすい財産です。
そこで有効なのが「遺言書」による相続の指定です。この記事では、特定遺贈・包括遺贈の違いや活用方法、実際の成功例・失敗例、注意すべき法律面のポイントについて、わかりやすく解説します。
不動産を継ぐ人を指定したい場合に必要な遺言書とは
自宅などの不動産を「誰に相続させるか」をはっきり決めておきたい場合、遺言書の作成が必要です。
法的に有効な遺言書としては、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類があります。
特に不動産は「登記名義の変更手続き(相続登記)」が必要ですので、物件の特定を正確に行うことが極めて重要です。
まず注意したいのが、登記簿上の「地番」と日常的に使う「住所(住居表示)」は異なるという点です。
遺言書に「○○市○○町1―2―3」などと住居表示を記載しても、それが登記簿に記載された「○○市○○町2098番1」などの地番と一致しない場合、相続登記の際に法務局から却下されるケースがあります。
不動産登記については、登記上の地番・家屋番号などで特定するため、必ず登記簿謄本(登記事項証明書)をもとに記載する必要があります。
大半の方が住む都市部では住居表示がなされていることが一般的ですので、そもそも「地番」と「住所(住居表示)」は異なると認識しておいた方が無難です。
公正証書遺言を作成した場合、公証人や司法書士・弁護士等の専門職が関与していることが多いですので、これらのミスはほぼ心配しなくていいのではないでしょうか。
また、都市部を中心に多いのが「位置指定道路」や「2項道路(建築基準法第42条第2項道路)」に接する敷地です。
これらの道路情報は固定資産税が課税されていたため、遺言を書く方の毎年の納税証明書などに反映されていないことが多いです。
また隣地と共有名義のため、わずかな持分のみを有していることも多くあります。
しかしこれらの不動産の僅かな名義というのは、相続人が不動産の売却価値や、再建築の可否を判断するうえで極めて重要となります。
遺言書作成時にこのような道路の状況が抜けていると、後から「接道のない土地のみしか相続登記ができなかった」、「売却ができなかった」などのトラブルに発展するリスクがあります。
このミスについては、不動産登記を専門とする司法書士で相続や遺言の手続きになれている司法書士ならば、見落とすことがないかと思います。
ただ正直なところ公的証明書に出ないため、権利証等も紛失しているケースでは、司法書士などでも見落とししてしまいがちでヒヤリとした経験がある箇所と思います。
また他の士業や公証人にとっても、納税通知書などだけでは分からないため、これらの非課税道路を見落としてしまうことは無いとは言えないところです。
こうしたことが発覚するのは実際に遺言を使う時、つまり遺言者が既に死亡してしまった後であることも多いため、下手すると取り返しのつかないミスになるところです。
もしこれらが遺言書から抜けていた場合、遺言書があったとしても抜けている部分については別途、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
相続人が複数いて意見がまとまらないと、不動産が「塩漬け状態」となり、売却や利用ができなくなる事態にもなりかねません。
高齢化が進み、認知症等で判断能力を失うと、そもそも遺言能力が認められず、遺言書が無効となることもあります。
したがって、不動産の相続を確実に行うためには、元気なうちに公正証書遺言を作成し、登記簿に基づく正確な物件表示を行うこと、そして道路や権利関係の状況も整理しておくことが重要です。
不動産を遺すときに知っておきたい 遺言書の書き方と贈与の方法
不動産を相続させたい相手が決まっている場合、遺言書によって明確に指定しておくことが大切です。
特に不動産は、前述したように正確な物件の記載が求められます。
遺言書に記す際は、住所ではなく登記簿に記載された「地番」や「家屋番号」を用いましょう。
たとえば、自筆証書遺言であれば、以下のように記載します。
私の所有する下記の不動産を、長男 山田太郎(昭和◯年◯月◯日生)に相続させる。
所在:東京都品川区◯丁目◯番
地番:品川区◯番◯
地目:宅地
地積:180.00㎡
また法定相続人以外への誰かに対し、不動産を残そうとする場合は、これは遺贈という扱いにするほかありません。遺贈は遺言で行うもので、大きく分けると、「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があります。
包括遺贈とは、「財産のすべて」または「〇分の〇」など割合で遺贈する方法で、遺産全体を包括的に承継します。一方、特定遺贈は、「この不動産を誰に」といったように、特定の財産を特定の人に渡す方法です。
特定遺贈は「所在・横浜市〇〇区△△@丁目、地番:▼番◯の宅地 及び 所在・横浜市〇〇区△△@丁目 家屋番号 @@番@ の建物を、甥の〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に遺贈する。」などと記載するものです。
一方で包括遺贈というのは、「全財産を従兄弟の@@@(昭和〇年〇月〇日生)に」や「全財産の2分の1ずつを甥の〇〇と姪の〇〇に遺贈する」などと記載します。
ただ、これまでの司法書士としての経験でも多くありましたが、遺贈でも相続でも、上記の特定遺贈のように、特定の相続財産を遺言で記す場合、前述したような「地番」と「住所(住居表示)」のミスであったり、非課税道路が記載漏れしてしまうというミスを多く見てきました。
そもそも記載されていない不動産については、遺言により登記をすることはほぼ不可能と言ってよいでしょう。
また「実家は次男に」とのような遺言書の場合、登記できるかも司法書士としても頭を悩ませるところですし、遺言の内容が不明確として相続人間でトラブルになる要因ともなる可能性もあります。
かなり大雑把な話になってしまいますし、遺言を書かれる方の意思と合致していることが前提ではありますが、自筆証書遺言の場合「遺言者の全財産を@@@に相続または遺贈する」という遺言書が、財産の抜け漏れを防ぐという点では最も安心で確実なのは間違いないでしょう。
ただ自筆証書の場合、法律的には余剰な部分が多い一方で、上記のような包括的な記載をしている遺言以外で、遺言者の全財産を隈なく網羅していた遺言というのは、私の経験上見たことがありません。
私自身も無理だと思いますし、それほど自分自身の財産を100%記載するというのは難しいのでしょう。
またその他に、専門職として遺言書をみていてよく見られる失敗は「予備的事項の記載が無い」ことです。
例えば高齢で子どものいない男性が、年の近い弟に「全財産を相続させる」というような遺言を書いたりします。
しかし遺言の作成後、弟が先に亡くなってしまったような場合、遺言で財産を受領する者が居なくなってしまったため、遺言全体が意味のないものになってしまいます。
司法書士などの専門職が関与したりする場合は、相続に詳しい専門職ならば「弟が先に死亡した場合、@@に相続または遺贈する」や、「弟が先に死亡した場合、弟の法定相続人@@が相続させる」などの記載を付けることが一般的です。
これを予備的事項といいます。
これら予備的事項についても、私の経験での範囲ですが自筆証書の場合、記載されていることは稀と言わざるをえません。
公正証書遺言で作成した場合でも、当然ご本人の方から上記のような内容を加えたい旨の申し出が無い限り、公証人としても勝手に加える訳にはいきませんので、これにより公正証書遺言であっても遺言として用を為さなくなってしまったケースもありました。
公正証書遺言といえども、あくまで公証人は遺言者の内容を「口授」、つまり話して頂いた内容を公正証書遺言として認証するだけですので、公証人の方から勝手に内容を付け加える訳にはいかないからです。
参考 民法第969条【公正証書遺言】
公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人2人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
大切な不動産を思い通りに相続するために
不動産の相続を確実に、かつ円滑に行うには、遺言書に誰に・何を・どのように残すかを明確に記すことがとても重要です。
特に高齢化が進む中、認知症等で遺言能力が問われる前に、確実な内容で遺言を作成しておくことが不可欠です。
遺言者と相続人双方の安心や不動産の円滑な承継に繋げるために、司法書士としては、登記に確実に通る遺言書の作成されることを願ってやみません。
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